こんにちは
マイナー車に目がないめぐさんです。
皆さんはこのバイクを知っていますか?
十分に強い! 十分な清潔感!
きっかけはインスタグラム
バイク購入前からひっそりと使っている私のインスタグラム。
最近は世界のTW以外にもいろいろとクロールしているのですが、その中で見つけたバイクがSR150でした。
私自身恥ずかしながらSRシリーズは国内販売されていたSR400、500、250、125とヨーロッパで販売されていたSR185エキサイター(SR125のボアアップ版)しか知識がなく、初めて見たときは見た目はSRに寄せているけど何かの改造車か中華の模造バイクか…?という印象でした。
台湾山葉機車
このバイクを生産していたのは台湾の台湾山葉機車。
ヤマハ発動機株式会社の子会社であり、長年台湾の二輪シェアトップ3に入る大企業です。
現在の主な生産車両は125ccクラスのスクーター。
125シグナスやアクシスZ、Bw’s125などはこの台湾ヤマハで生産されています。
SRの紹介の前に台湾ヤマハの設立について触れておきましょう。
この台湾ヤマハが設立されたのが1986年。
これには当時既に功學社(現:KHSグループ)という現地企業が1950年代からヤマハのスポーツ用品や楽器などを取り扱っていた流れで1965年からオートバイを輸入販売しており、この企業が現地行政の二輪車輸入規制に合わせオートバイの自社現地生産に乗り出そうとしていたのですが、当時現地の技術力がまだ未熟であったため断念されていたという背景があります。
その後、功學社のオートバイ自社生産のためのヤマハ発動機との大々的な技術協力は終わってしまいますが、1977年にはこの功學社の現地ディーラーの有志が萬山機器工業を立ち上げ、ヤマハ発動機との技術協力を再び行いRX125とパッソーラ50を生産し始めます。
これが現地で数万台のヒットを記録し、技術力のあるメーカーとしてその名を轟かせたのもつかの間、現地の環境保護庁が自動車とその関係各所による大気汚染防止措置を施行。
この措置で大ダメージを喰らってしまった萬山機器工業は、1986年に経営破綻の憂き目にあってしまうのです。
そこで、再びヤマハ発動機と功學社が立ち上がります。
今度は功學社の投資用子会社である寶樹投資股份有限公司がヤマハ発動機と共同出資し台灣山葉機車股份有限公司を設立。
そして当時倒産寸前だった萬山機器工業を買収し誕生したのが現在の台湾ヤマハです。
台湾ヤマハ初の自社設計ビジネスバイク
最初に販売されたのが1991年。
この当時の台湾ヤマハは販売車種は多いもののそのほとんどがノックダウン生産でまだ自社設計バイクが少なく、1990年にFZR150が初の自社設計車種として発売されたばかりでした。
そんな中、ビジネス用途として開発されたのが愛將SR150です。
当時の台湾には150ccクラスの4ストロークビジネスバイクが少なく、競合車種であった125クラスのビジネスバイクの一歩先へ行くパワーと共に着実に生活に根付きロングセラーモデルへの仲間入りを果たしました。
17年もの間いくつかの排ガス規制にも耐えつつ生産され2008年に惜しくも販売終了となりましたが、高品質で質実剛健を貫くクラシカルなスタイルとビジネスバイクという性質上他のバイクよりも低価格な中古市場であるということが起因しているのか若者のオートバイの最初の一台として選択されることも多いようです。
車両スペック
車両名:愛將SR150
車両型式:3UR
全長:2,050mm
全幅:770mm
全高:1055mm
乾燥重量:134kg
ブレーキ型式(前):ドラム
ブレーキ型式(後):ドラム
タイヤサイズ(前):3.00-17
タイヤサイズ(後):3.00-17
エンジン型式:3UR
エンジン種類: 空冷4サイクルSOHC/2バルブ
総排気量:147cc
圧縮比:10.5:1
ボア径:57.0mm
ストローク:57.8mm
最高出力:7.7kW(10.5PS)/7500rpm
最大トルク:10.79N・m/5500rpm
始動方式:セル・キック併用式
点火方式:C.D.I.
クラッチ方式:湿式多板コイルスプリング
変速機型式:常時噛合式前進5段リターン
燃料供給方式:キャブレター
潤滑方式:強制圧送ウエットサンプ
燃料タンク:13L
各部チェック
エンジン本体
なんだかなんとなく見覚えのあるようなエンジンだなぁ…と思った方。
正解です。
このエンジンはXT125直系であるSR125のエンジンをプロトタイプとし、ストロークアップや再設計・仕様変更を加えて現地向けにリデザインしたもの(要は実質的な新規設計)であり、その名残から若干ではありますがXT125系譜の意匠が残っています。
クラッチカバーを開けるとこんな感じ。
クラッチのプレッシャープレートのデザインが違うことが目立ちますが、これは水冷初期DT125(10V=17F)のものを採用。
プライマリドリブンギアとクラッチボスを3UR独自品番で製作し、ロッド類を1HXから流用することで6枚クラッチとなっていることが特徴です。
これ小細工すればTWの6枚クラッチ化出来るんじゃね…って思いましたが残念ながら純正部品は廃盤でした。
今度はジェネレーターカバーを開けてみましょう。
ステーターコイルの形状の通りこの車両は三相交流を採用。
先にも説明した通りXT系エンジンを採用した車両ですが、クランクケースから再設計しているので各部品は3URの独自品番が割り当てられています。
なのでTWやXT系のカバー等を流用することはできないものの、やはり所々XT系エンジンのデザインの名残があることが確認できますね。
カムチェーンカバーを開けるとこんな感じ。
カムスプロケットはXT系と共通に見えて独自品番ですが、それにかかっているカムチェーンと中にあるカムシャフトはSR125と共通。
ちらっと見えているカムチェーンテンショナーはセロー225(4JG)と共通の部品を採用しています。
何故排気量が150ccなのか?
これは余談なのですが、台湾のオートバイ、特に古い車種となるとスポーツ車であっても150ccのバイクが多い印象を持つ方がいると思います。
現在でも台湾製スクーターの激戦区は125~150ccですし、日本でも150ccクラスのバイクが増えていると思いませんか?
これには訳がありまして、1979年から台湾政府がオートバイの国内販売車両の排気量上限を150cc以下としたからです。
理由について明確に描かれている資料がなかったので想像ではありますが、現地行政の二輪車輸入規制ついて同時に触れている項目が多かったのでおそらくはこの規制による余波なのではと考えています。
この150cc規制は90年代半ばに撤廃され輸入規制も2002年に解禁されましたが、税金に関しては150cc以上から税金がかかるようになっている(=150cc以下は免税)ことなどから、相変わらず現地での150cc未満での需要は根強く今後もこの状態が続くように思われるのが現状となっています。
フレーム
SR150のフレームはダブルクレードルフレームを採用しており、右側のフレームが外れることにより整備性を上げています。
ちなみにこのフレームは完全新規設計のものではなく、80年代から台湾ヤマハで生産されていた2st車であるRZX135というバイクのフレームを補強改修したもの。
こちらがRZX135のフレーム
2st車両のフレームに4stエンジンを搭載するというものすごい発想ですが、設計コストを抑えることで車両価格を安く抑えるだけではなく、既存の販売店の整備時のノウハウをそのまま生かすことができる=整備にかかる時間や手間や技術を抑えることができる当時のヤマハなりの考え方だったのではないかと思います。
ちなみにこれ、SRX250のフレームと似ているんですよね。
このRZX135の生産開始が1986年でSRXが1983年なので、もしかしたら設計流用を行っているのかもしれません。
足回り&ブレーキ
フロントブレーキはシンプルかつ整備性に優れたドラムブレーキを採用しています。
このドラムはRX125Eを流用したもので、これに規格品の17x1.85リムを組み合わせて専用品番のスポークで固定する構造です。
正立式のフロントフォークはTWと同じ33mm径インナーチューブを採用。
これは同じ台湾ヤマハのFZR150と同径なようで、本国ではこれを流用し専用に製作されたハブを使用したフロントディスクブレーキ化キットが販売されているようです。
続いては後輪。
こちらもブレーキはドラムを採用。
これに品番は違いますが前輪と同じく規格品の17x1.85リムを組み合わせています。
428チェーンが収まる大きなチェーンカバーがビジネスバイクらしさを際立たせていますが、よく見るとタンデムステップの後ろに小さな穴が2つ開いています。
こちらはサイドスタンド装着用にあけられているようで、多くの車両がセンタースタンドを取り外しこちらに社外品のサイドスタンドを装着しています。
リアサスペンションは2本サスを採用しており、乗り心地と耐久性に磨きをかけています。
外装
直線基調な車体とメッキの磨かれたフェンダーはSRの名に恥じないがっしりとしたもので、規制に合わせた細かい変更や安全の為の部品の装着はあるもののデビュー当時から生産終了までほとんどデザインを変更していません。
デビューした年式を考えると当時としてもやや古いデザインと捉えることも出来ますが、余裕のある発電方式や現代でも通用する装備でこの見た目と考えると維持に気を遣わないクラシックデザイン車種としてはかなり有用なのではないかなと思います。
RX-Zから流用されたヘッドライトはどこかYDを感じさせる角型で、バルブは正確な記述がないものの形状からおそらくPH7と予想されます(純正部品は廃盤)。
ウインカーは前後共に専用品番ですが、その多くの部品がRX125のもので構成されており流用によるコストダウンを図っています。
アンダーステムに装着されたYAMAHAエンブレムもRX-Zからの流用。
ハンドルはアップハンドルでそれに組み合わせるハンドルスイッチは左手側にチョークレバーが装着されています。
ヘッドライトに乗っかる特徴的な弁当箱型メーター。
サイズ的にタコメーターが搭載されているように見えますが、なんとそこに入っているのは燃料計。
そこまで大きい必要ある!?と思いましたがそれほど重要なことなのかもしれませんね…。
リア回りもSRシリーズの厚くて幅のあるシートとテールカウルが一体になったスタイルをしっかりと継承しており(ビジネス用途にさらに特化したシングルシート+強靭なリアキャリアモデルも存在)、それでいて大型のウインカーとテールランプがビジネスバイクとしての安全性も確保しています。
色々なSR150
先に説明した通り台湾全土に広がるSR150はビジネスバイクという頑丈な車体にヤマハの日本産オフロードバイク譲りの扱いやすいエンジン、そしてSR譲りの美しいスタイリングで、どんな用途でもしっかりとカバーするまさに多目的車両。
販売終了から15年経った今でも現存車両は多数存在しており、老若男女から愛される車両になっています。
そんなSR150のカスタムを少し紹介しましょう。
[46#]【Cafe racer再進化 Cafe racer2】 YAMAHA SR150 舒適黑進化史!
こちらはanderson1411さんのSR150。
カフェレーサーをコンセプトとし、全体的に渋めの基調にまとめられたボディーはストロボパターンにYAMAHAロゴのタンクが美しいですね。
デザインから実際のカスタムまでをほぼ個人で行っています。
まず注目するのはフロントのダブルディスクブレーキです。
こちらはFZR150のフォークを流用し、社外パーツをいくつか組み合わせて大型キャリパーを使用しているようです。
Xにテーピングされたイエローレンズのヘッドライトに組み合わせるビキニカウルはRZXのものを塗装し装着しています。
シングルシートと小ぶりなランプがセットされたテールカウルはすべてワンオフ品。
向こうは小さな生地屋さんや裁縫屋さんが沢山あり自作をするのも作成を依頼するのも選択肢が多いのが利点ですね。
もう一台紹介しましょう。
こちらはsimon211232さんのSR150。
SR400のようなレトロなスタイルを狙ってカスタムされた車両で、赤と黒のツートンに塗られたタンクと丸型ヘッドライト、2眼メーターがスポーティーな印象です。
こちらも個人で製作された車両となっています。
フロントブレーキはディスクブレーキに換装。
若干強引ではありますがSR150のインナーチューブとSYMの野狼R(ウルフR)のアウターチューブをドッキング(!)させ、ハブやホイール、ブレーキ関係をゴッソリ野狼Rのものに交換しています。
そして特徴的なのが前後18インチリムに換装されていること。
SR400と同じフロント1.85、リア2.15リムを使用し、軽快感と迫力を増しています。
リアはシートを交換しグラブバーを装着。
それに組み合わせた砲弾型のウインカーと角型のテールランプ、メッキのフェンダーが優雅なデザインに仕立て上げられています。
純正部品は廃盤が増え始めているが…
今回入手したSR150のパーツリストから検索してみると外装の大半の部品とクラッチやエンジン関係、特に3URの品番の部品の廃盤が目立ち始めています。
ですが、さすが台湾のバイクだけあって社外部品のマーケットは驚くほど多いです。
中国国内でも兄弟車が販売されていた過去もあるので中華系によくある純正形状の模造品はもちろんのこと、クラッチ関係のビレット強化部品やディスクブレーキキット、パソコンでマッピングのできるデジタルCDIなんかも売られています。
また、向こうには小さなバイクショップや様々なジャンルの町工場の加工屋さんが沢山あるのでワンオフパーツを作る難易度も非常に低く、右へならえの定番カスタムが少ないのも特徴といえます。
今後も愛されるバイク
今回は、台湾ヤマハから販売されていたSR150というバイクについて紹介してきました。
SR150に名付けられた愛將という名前は、愛され、信頼される将軍という意味。
その名の通り愛將は台湾全土でビジネス用途や生活の大事な足として幅広い人に愛され信頼されるバイクとなりました。
最早神格化されつつあるSR400や500からは外れたSRシリーズと聞くと日本ではSR125や250がジャメリカンや珍車として有名であり、それに対する世間の評価は正直悪い方へ傾いているのでもしこの車両が販売されていればその評価も少しは変わっていたかもしれませんね。
残念ながら日本への輸入は個人でごく僅かとなっており日本国内での知名度も中国台湾への滞在経験のあるオートバイ好きの一部のみという存在ですが、このスタイリングで扱いやすいとなれば日本でも一定数のファンはついたのではないでしょうか?
この記事で興味を持ってインスタあたりで愛將150と検索して頂けると現地での生活に馴染んだ様子が見られるので是非チェックしてみて下さい。